ペン空 2

    第二章

 泣き崩れるソウタ、その横でティマが石を奇怪な表情で見ていたが、あることに気づいた。

「ソウタ、お前の奥さんって、凄く怖くなかったか?取り敢えず泣くのをやめろ。何事かと寄ってきちまうだろ。」とは言うもののえずきながら涙が止まらないソウタ。

「うっ‥うぅ‥妻も怖いけど、一人ぼっちになった俺の子供のほうがもっと怖さを知るんだ。俺は、妻にことの全てを話す!」

「待て待て!待てって!取り敢えずこの石を子供と思って育ててみないか?」

「見たらすぐバレるだろ!?話してスッキリした方が‥」言いかけた瞬間のことだった、ソウタの妻がこっちに向かってきたのだった。

 ソウタの妻、サリーはとてもパワフルで家庭的なメスペンギンだ。身籠る前は、一度些細なことで喧嘩になり、サリーに頭を叩かれソウタは地面にめり込んだことがあった。二度と逆らわないと胸に刻んだはずなのに、話しに行ったらわざわざ死にに行くようなものである。

「ティマ、やっぱり本当の事は言えないが卵落としてきたって嘘をついて俺は我が子を探しに行く!」錯乱するソウタはティマに目線を送るが、ティマは深く溜め息をつき、ソウタの肩に手を置いた。

「俺が探しに行く。だから、代わりに俺の卵を育ててくれないか?産まれる前には必ず戻ってくる。」

「そんな!でも!うぅ‥‥すまない!すまない! 俺が君の卵を温める。」

「大船に乗ったつもりで期待しててくれ!じゃあ行ってくる!」ティマはソウタに卵を渡し、海に潜水して行った。

「ティマ頼む‥。」そう願った束の間、後ろからサリーがやってきた。

「あら、ソウタじゃない!どうしたの?」

「なんでもないよ。僕たちの子供が元気で育ってくれるといいね。」

「そうね!私たちの可愛い赤ちゃん。」サリーは、卵に頬擦りした。

(ティマ、俺もこの状況が打破出来るよう頑張るから、俺たちの本当の子供を見つけてくれ‥頼む)ソウタは晴々とした空を見つめ祈りを捧げた。

 

 とある南極大陸の場所に一匹の動物が地響きをあげ歩いていた。近年人間によって発見された南極熊である。体毛は茶色い熊でアザラシを捕食する、捕食方法はアザラシの脂身を好物とし赤身はお腹が減っていない限り残す。

「あーあ、お腹空いたなー。ここんとこまともにご飯食べてないから余計に腹が減るわ。穴でも掘るか。」南極熊は、穴を掘り食べ物を探し始めた。掘っても何も出ないことは自分でも分かるが飢え凌ぎに掘りに掘ったところ、アザラシの赤身が出てきた。

「これあんまり好きじゃないんだよなぁ、まあ食うか。」他に食べるものがないので、貪り始めた。好きな食べ物ではないためか、まだお腹が空いている南極熊は別の場所を掘り始めた。

「なんかないか‥‥ん?なんだこれはぁ。何かの卵だなぁ。何か動いてる気がするようなしないような‥育てたら美味しいものが産まれたりして。いっちょやってみるか。」

 卵を持ち帰り自分の住処に戻った南極熊は、自分のお腹の中で温めてみた。

「うわぁ、冷たい卵だぁ!お腹が冷えるな〜。我慢してこのまま寝よう。おやすみ卵ちゃん。」どんな動物が生まれてくるのか分からないが何日もかけ卵を温めては持ち歩いて散歩したり話しかけたりした。他の仲間には変な目で見られたりしたが、この熊は気にもしなかった。

「卵ちゃん、オラの名前はストロング!産まれてきたらよろしくね!強いって意味らしいけど、オラは争いごとが嫌いだから皆オラを避けてるけど卵ちゃんはどう思うのかなぁ。今日も寝よう。おやすみー。」優しく語りかけながら眠りについた。ストロングは、夢を見た。それは父親の夢だった、幼少期に父親とよく行動してアザラシの捕食の仕方、仲間との交流等を教えてもらっていた。父親は、仲間や家族を守る為なら自ら自分の命を差し出す程強い熊、まさにリーダー的存在だ。

 だが、父親は人間に撃たれて死亡してしまった‥。最期に残した言葉は、「お前は、俺みたいになれとは言わないけど、好きな道を選んで進めよ。」と息を引き取った。たまに見る父親の夢でうなされる。

「うわぁあああ!父さん!と、父さん‥。またあの夢か‥好きな道は選んできてるけど、やっぱり自分一匹だけじゃダメだよな‥。」ストロングの目から一粒の涙が頬を濡らした。

 あれからストロングの高温度のお腹で温められたおかげか卵から雛が生まれた。

「おほっ!産まれた!んん、これはペンギンの子だなぁ。食べれることは出来るけど、自分の子だと思って育ててみるか!」

「プープープププッ!」ペンギンの雛はお腹が空いているようだ。ペンギンの雛が食べるものは、親ペンギンが食べて消化したものを吐き出して口移しで食べさす。動物園だと、飼育員が魚をミキサーして食べさしている。だがストロングには当然初めてなことなので、餌のあげかたが分からない。

「どうしたら良いんだろう。そうだ!先生に聞いてみよう!」ストロングには先生という物知りの南極熊が近くに生息しているみたいで、すぐさま走って先生のもとへ飛んで行った。

「先生!久しぶりです!ストロングです!」

「久しぶりに顔を出しおって、何か用か?」

「ペンギンについて調べてまして、雛のご飯は何食べているんですか?」あえて雛がいることは秘密にしておいた。

「ほう、なぜそのようなことを聞くか知らんが‥まあ教えよう。」先生は語りストロングに分かりやすく教えた。

「流石物知りですね!ありがとうございます。では!」話を聞くと直ぐ穴蔵に飛んで行った。

「あやつは何考えてるか知らんが、やることが見つかってよかったのぉ。」

 穴蔵に戻ると、ペンギンの雛は声を大きくさせて鳴き叫んでいた。

「プー!プー!」

「あぁ!うるさい声で耳が壊れそうだ!早くご飯を作ってあげないとな。」

 熊の聴覚と嗅覚はとても優れており、遠く離れた場所の音なども聞き分けるためペンギンの大きな鳴き声は、例えるとメガホンで叫ばれているぐらいだ。

 ストロングは海の中でサクッと取ってきた魚を口の中に頬張り鋭利な牙でバリバリ音を立てて噛み締めた。

「このぐらいか?結構くちゃくちゃにしたんだけど‥このぐらいだな!」ストロングは舌の上に魚のようなものを乗せて雛に差し出した。

「おお!はへへる!はへへる!‥いぇっ!」

 舌をついばまれたため、激痛が走る。

「うぅ、痛い‥。けど、喜んでいるから、まあいっか。」雛はお腹が膨れたのかストロングの隣でうたた寝した。

「可愛いな、明日はもっと食べさせてやるからな!」ストロングは、この雛が隣にいることでぽっかり空いた心が癒されていくような感覚に陥った。

 

 第二章 完